2021/01/02 02:58



『ミニチュア陶芸』

20世紀半ば、北欧の製陶所では、大量生産品を製造しながらも アーティストが自由な制作活動を行える美術部門として、アート・デパートメントが設けられていました。 スウェーデンのグスタフスベリ製陶所のアート・デパートメント「G-Studio」や、 ロールストランド製陶所のアート・デパートメント(1932‐1970年代)、 フィンランドのアラビア製陶所のアート・デパートメント(1931‐)など、 今日、世界中のコレクターに愛される、北欧モダン陶芸のアートピースが産み出された背景には、 こうしたアート・デパートメントでアーティストたちが自由に創作活動に没頭できたことも大きな要因でした。 

この時代のグスタフスベリ製陶所を代表するアーティストの1人が、 Berndt Friberg(ベルント・フリーベリ / 1899-1981)です。 フリーベリは、”轆轤の魔術師”と称された卓越した技術と、深い釉薬の知識を持ち、純粋に創作活動に情熱を注いだ人でした。 繊細で緻密なフォルム、シンプルな中に複雑な表情を見せる豊かで穏やかな色彩、 独特の佇まいを放つその作品は、写真家Robert Maplethope(ロバート・メープルソープ / 1946-1989)がコレクションしていたことでも知られ、 世界的に多くのファンを持ち、高い評価を受けています。

そんなフリーベリがあまた制作したものの1つが、ミニチュアの陶磁器でした。 手のひらに収まるこれらの小さな作品も、轆轤で挽かれ、高台を削り、中の空洞までつくられているというから驚きです。 フリーベリの精巧なミニチュア作品は、東洋陶磁に造詣の深かったスウェーデン国王グスタフ6世アドルフ(1882‐1973、在位 1950‐ 1973)のコレクションにも加えられています。
そして、フリーベリ以外にも、さまざまなアーティストによって、こうしたミニチュア陶磁器はたくさんつくられていたのでした。

この小さく美しいアートピースの世界に魅了されてしまった店主は、 「ミニチュア陶芸」として、こつこつと蒐集しているのです。



参考文献:
長久智子「1950年代における北欧モダニズムと民藝運動、産業工芸試験所の思想的交流」(2015)

掲載図版 :
Arthur Hald and Marianne Landqvist, Berndt Friberg : Stengods Gustavsberg, Keramiskt Centrum, 1979. P.20 より転載。